「夏を拾いに」(森浩美)①

虚心坦懐に昭和46年の夏の一風景に溶け込む

「夏を拾いに」(森浩美)双葉文庫

昭和46年の夏。
小学校5年生の「僕」は、
目立ちたい一心で、
祖父から聞いた
「不発弾」探しをはじめる。
仲間は、
単純でマイペースな雄ちゃん、
気持ちの優しいつーやん、
東京から転校してきた高山、
そして「僕」の4人。

ベタなノスタルジック小説と
わかっていてもページをめくる手が
止まりませんでした。
全500ページ、あっという間に
読み終えてしまいました。
再読ですが、やっぱり面白い。

まず、当時の子どもたちの
エネルギーが全開している場面が
次から次へと現れます。
目立つために
誰も成功したことのない
校庭の池の飛び越えに挑戦し、
失敗する。
信号で止まっているトラックに
飛び乗り、タクシー代わりに使う。
使われていない用水路を
トンネルのように使って
工場の敷地内に侵入する。
さらにはそこの倉庫の裏に
積まれている廃棄物から
磁石を「借用」する。
毎日が冒険だった時代があったのです。

そして、当時の子どもたちの友情が、
全編にわたって描きつくされています。
特におぼっちゃん育ちの高山が、
3人と打ち解けていくようすは、
予想通りの展開であるにもかかわらず、
爽やかです。
不良グループにからまれながらも
立ち向かっていく場面もまた、
ありがちなのですが、
心が躍りました。

さらには、古き良き時代の
郷愁を呼び覚ます
アイテムやキーワードが、
これでもかとばかり登場します。
「う~ん、マンダム」
「七年殺し・カンチョー」
「ザリガニ釣り」
「五段変速ギアの自転車」など、
当時を知る世代にとっては
懐かしいものばかり。

そうです。500ページの大長編ながら、
物語の要所要所に、
心地よいエピソード、
当時を偲ばせる情景、
懐かしい言葉を配置しているのです。
読み手の心の動きを
計算しつくしたかのような
ストーリー構成なのです。

作者森浩美は放送作家を経て
SMAP等の曲を多数手がけた作詞家。
どうりで感動のツボを押さえるのが
上手いわけです。

冷めた眼で
「ベタなノスタルジック小説」と
切り捨ててはいけません。
虚心坦懐に昭和46年の
夏の一風景に溶け込むことが大切です。
そうすれば語り手と同じ目線で、
ワクワクするひと夏を
味わうことができるのです。
この夏の読書として、
中学生に薦めたい一冊です。

(2019.7.23)

まきこ 川崎によるPixabayからの画像

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